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ブキミノタニ現象 編

ユウ 前回の話で、日本の伝統的な2Dセル・アニメーションから3DCGアニメーションへ王座が移動する転換期というのは分かったんですが、アニメーションじゃ「セル画」はもう使われなくなったんですよね~?
それなのにまだ「用語」として「セル」って使ってますよー?
ケイ 使い方としては「レイヤー」みたいな使い方だよね。
背景と人物をセルで分けて描く。「層」とか重ね合わせの意味で使っている。
透明なセル画に動画部を描き、背景は画用紙に描いて合成して撮影する様式のアニメーション=動画と背景部のマチエールが違うのが特徴だった。
ユウ それから、3Dってなんか気持ち悪いものもありますよね。
ケイ 3DCGには、モーションキャプチャーからの抽出・トレースする方法と、キーフレーム法があるけど、どちらも、過度の現実感を持ち込むと「ある水準」から観客が強い違和感を感じる……と言う現象が指摘されてきたんだ。
ユウ あ~、思い当たるものがあります。映画版の「ファイナルファンタジー」。
ケイ 動きが滑らかすぎて、生身の人間に見えない。
緻密な質感が異常に感じる――といった、感覚的拒否反応がでてくるんだ。
これがロボット工学で言われている人間に近い外観や動作を行うロボットに抱く嫌悪感を指す、いわゆる「不気味の谷現象」とよく似ている。
ユウ 不気味の谷ですか?これからの介護ロボットなんかには「課題」になるでしょうね。
でも、ブキミは分かりますけど、なんで「谷」なんですか?
ケイ ロボットだと、その外観や動作がより人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的、共感的になっていくんだけど、あるところで突然強い嫌悪感に変わる。
ところが更に人間の外観や動作と見分けがつかなくなると、今度はより強い好感に変わって、人間と同じような親近感を覚えるようになるという現象。
この幅が狭いからグラフにすると谷間になる。
ユウ なるほど、それが「谷」ですか。
でも2Dというかセル画のような手書きでもリアルは追求してきたんじゃないですか?
ケイ そう、でも手書きのセルや立体のストップモーションだとこの現象は見られない。
どうしてかというと、2Dに特徴的な「デフォルメ」と3Dの持っている「リアリティの追求」は相反関係にあるんで、デフォルメという表現そのものに不気味の谷が発生する余地はとても少ないんだ。
ユウ 人間的といえば人間的ですね。
それで「不気味の谷現象」って証明されているんですか?
ケイ もとは経験則というか単なる仮説だったけど、今は証明されている。
2011年、カリフォルニア大学サン・ディエーゴ校の認知科学者 Saygin 準教授の研究チームが不気味の谷の存在を脳科学的アプローチで確かめることに成功している。
ユウ そういえば、ピクサーの3Dアニメは、ある時期まで人間以外が主人公でしたよね。
人間をメインに描いてない。
ケイ この不自然さを取り除く方法として宮崎駿に学んだ「ペーシング」が生かされていて、その後、人間を描いていくんだ。
この間にものすごい研究がされていている。
例えば、アナとエルサの両眼はアーモンド型に釣りあがっていて大きい。
ほんの少しバランスを欠いただけで、寄り目や斜視に見えてしまう。
普通は避ければいいものをわざと使っている。
ところが、逆にここでペーシングが生きるんだ。
間も取られていて、目線の芝居がデリケートに設計されている。
視線が上を向くと積極的・楽観的・従順・無垢な印象を与え、下を向くと、消極的とか悲観的・反抗・屈折といった印象を与える。
人間らしくなる。人間に見えてくる。
ユウ ディズニーには元から、こういう技術がありますからね。
ケイ 2D時代のディズニーは顔を筋肉の集合体と捉えていて、各パーツの収縮を誇張することで豊かな表情を描き出してきたんだ。
作画セオリーとして、驚くと顔全体が縦に伸びて各パーツの間が開く。
怒ると縮んで各パーツがセンターに集まる。
口を開けると頬が上がり、目が細くなる。
――フレッド・ムーアの法則。
ユウ でも簡単な道のりじゃなかったんですよね。
ケイ 2005年、ラセター体制となる前に2D凍結を決定していたディズニーは、動画用紙や動画机の廃棄を命じていたんだけど、現場スタッフが極秘で倉庫に保管していたんだ。
復職してきた、ジョン・マスカーは「並べられた動画机を見たとき、私はまるで魔法にかかったような気持ちになりました。これがディズニーの魔法なんだと感動しました!」と2D復活の経緯を説明している。
「2Dが自分たちの出発点であり、還るべき場所である」という思いは、ラセターも復帰を果たしたスタッフたちも同じだったろうねぇ。
2010の『ラプンツェル』では2Dの大ベテラン、グレン・キーンを製作総指揮に招いて若き3Dアニメーターたちに2Dの伝統的かつ繊細な演技の継承を行ったという訳さ。
ユウ ところが……(゚A゚;)ゴクリ
ケイ そうなんだ、3D+2Dの『ラプンツェル』を経て、アナ雪で「2Dと3Dを癒合したプリンセス・ミュージカル」という新生ディズニーの進むべき王道がようやく決まったと思ったんだろう、大役を果たし終えたキーンは、2012年に38年間在籍したディズニーを退社した。
ところがこの間に2D再興を果たすべく『くまのプーさん』が2011年に製作されたんだけど……大敗。2D部門は再凍結となった。
ユウ そういう経過なんですね。
ケイ 観たほうがいいのは、【3Dと2Dの複合技】としてディズニーの短編アニメ『Paperman(紙ひこうき)』がすごい!クオリティ高いよー。
「2D」のよさを取り込んで「3D」は発展していく。
ユウ 「先輩」のよさを取り込んで「新人」は発展していく(/・ω・)/
ケイ ……。
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